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民事執行法改正で強制執行制度が非常に使いやすくなる(養育費の回収可能性も上がる)

民事執行法改正

令和元年5月10日、民事執行法の改正案が成立しました(公布は5月17日)。

改正民事執行法は公布の日となった5月17日から1年以内の政令で定める日から施行されることになっています。

この民事執行法の改正は非常に大きな意味を持ちます。

民事執行法の改正は民事訴訟の実務にも大きな影響を与え、日本の裁判実務、ひいては社会全体に大きな影響を与えることになるでしょう。

これまでの民事執行法はあまりにも使いにくい制度だった

現在の民事執行制度は非常に使いにくいです。

民事執行法の建前とすると、お金や財産、収入がある人から回収はできるが、何の財産も収入もない人から回収することは不可能というものです(強制労働させて回収なんてことはできません)。

ただ、現在の民事執行制度は非常に使いにくく、お金がないから払えないという人だけでなく、お金はあるけどうまく財産を隠した人からは回収できない、しかも財産隠しはあまりにも簡単というひどい状況でした。

こういった法律の不備を熟知している人にとっては、民事執行、ひいては民事訴訟なんていうのはまったく怖いものではありませんでした。

そのため、訴えられても、どうせ回収なんてできないだろ、と民事訴訟制度をバカにして敗訴判決を一切恐れない人間も少なからずいました。

しかしながら、今回の民事執行法改正でこのような現状は大きく変わろうとしています。

以下、どのような点で変わるのか解説していきます。

不動産情報の取得(隠している不動産をあばき出す)

民事執行法205条1項は以下のように定めています。

執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、それぞれ当該各号に定める者の申立てにより、法務省令で定める登記所に対し、債務者が所有権の登記名義人である土地又は建物その他これらに準ずるものとして法務省令で定めるものに対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるものについて情報の提供すべき旨を命じなければならない。ただし、第一号に掲げる場合において、同号に規定する執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りではない。

一 第197条第1項各号のいずれかに該当する場合 執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者

二 第197条第2項各号のいずれかに該当する場合 債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者

これだけ書くとなんのことかわからないでしょうが、要は、養育費などの支払い義務を負っている人が所有している土地や建物などについて情報提供しなさいというわけです

このように説明すると、賢い人は、「あれ? 現状でも不動産登記は誰でも調べることができるんだからこんなの設けても変わらないんじゃない」と思われるかもしれません。

ところがどっこい、これけっこう意味があります。

登記を調べるには、あくまでも不動産を特定する必要があります。

たとえば、債務者が住んでいる土地建物は、債務者の所有物である可能性が比較的高いので、ここを調べる方は多いでしょう。

では、債務者が住んでいない土地建物はどうでしょうか。

たとえば、債務者が投資用マンションを所有していたとして、それがどこのマンションなのか、調べることができますか? そもそも、居住地以外の不動産を持っているかなんてわかりますか?

普通はわかりません。

また、登記所に、「〇〇さん(債務者)が所有している不動産のリストをください」なんて言っても応じてくれません。

つまりは、現在の民事執行法では、債務者がどこかに不動産を所有していても、それを黙っていれば、債権者としては、その不動産を差し押さえることが困難だったのです。

これが、民事執行法改正により、「〇〇さん(債務者)が所有している不動産のリストをください」と裁判所経由で言えば、教えてもらえるようになるのです。

不動産隠しはもう通じませんよ、というわけです。

勤務先情報の取得(給与差押えがより容易に)

民事執行法206条1項は次のように定めています。

執行裁判所は、第197条第1項各号のいずれかに該当するときは、第151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権又は人の生命若しくは身体の身体の侵害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者の申立てにより、次の各号に掲げるものであって最高裁判所規則で定めるところにより当該債権者が選択したものに対し、それぞれ当該各号に定める事項について情報の提供をすべき旨を命じなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りではない。

一 市町村(特別区を含む。以下この号において同じ。) 債務者が支払を受ける地方税法(昭和25年法律第226号)第317条の2第1項ただし書に規定する給与に係る債権に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの(当該市町村が債務者の市町村民税(特別区民税を含む。)に係る事務に関して知り得たものに限る。)

二 日本年金機構、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会又は日本私立学校振興・共済事業団 債務者(厚生年金保険の被保険者であるものに限る。以下この号において同じ)が支払を受ける厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第3条第1項第3号に規定する報酬又は同項第4号に規定する賞与に係る債権に対す強制執行又は担保権の実行の申立をするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの(情報の提供を命じられた者が債務者の厚生年金保険に係る事項に関して知り得たものに限る。)

これまた複雑ですね。パッと見、よくわからないのは当然です。

この条文は、要は、債務者の勤務先の情報を、市区町村や日本年金機構が、裁判所を通じて教えてくれるのです

これは非常に重要です。

強制執行の中で有用な手続きとして給与の差押えがあります。

毎月のお給料から一部を強制的に天引きして、弁済させるという強力な方法です。

ただ、これをやるためには勤務先を特定しなければなりません。

その人のことを良く知っている人(たとえば元夫婦)であれば勤務先もわかるでしょうが、たとえば、交通事故の加害者のような人が相手だとどこに勤務しているのかわかりませんよね。

また、元夫婦であっても、離婚後に転職をしていたなら、どこに転職したか(つまりは現在の勤務先がどこなのか)わからないのが一般的です。

こういった場合、現状だと探偵を雇って勤務先を調べるといった方法くらいしかありませんでした。

もちろん、役所は税金を納めてもらう関係上、その人の勤務先がどこかは知っていますが、「債務者の勤務先を教えてください」と市区町村に言っても、個人のプライバシーに関する情報なので教えません、と門前払いされるのが現状でした。

ところが、民事執行法改正により、裁判所を通じて市区町村に対し、「債務者の勤務先を教えてください」と問い合わせれば答えてくれるようになるのです(もちろんそれをするために必要な要件はありますよ)。

これは大きな進歩です。

ただし、勤務先というプライバシーに関する情報なので、不動産の情報と違ってけっこう使える場合に制限があります。すなわち、

・第151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権(たとえば、婚姻費用や養育費の請求)

・人の生命若しくは身体の身体の侵害による損害賠償請求権

に限定されています。

個人的にはあまりにも限定しすぎではないかと思いますが、まずはこの法改正による進歩を歓迎すべきでしょう。

預貯金や株式の情報の取得(預貯金の差押えがより容易に)

民事執行法207条1項は次のように定めています。

執行裁判所は、第197条第1項各号のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより、次の各号に掲げる者であって最高裁判所規則で定めるところにより当該債権者が選択したものに対し、それぞれ当該各号に定める事項について情報の提供をすべき旨を命じなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することでができないときは、この限りでない。

一 銀行等(銀行、信用金庫、信用金庫連合会、労働金庫、労働金庫連合会、信用協同組合、信用協同組合連合会、農業協同組合、農業協同組合連合会、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、農林中央金庫、株式会社商工組合中央金庫又は独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構をいう。以下この号において同じ) 債務者の当該銀行等に対する預貯金債権(民法第466条の5第1項に規定する預貯金債権をいう。)に対する強制執行又は担保権の実行の申立をするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの

二 振替機関等(社債、株式等の振替に関する法律第2条第5項に規定する振替機関等をいう。以下この号において同じ。) 債務者の有する振替社債等(同法279条に規定する振替社債等であって、当該振替機関の備える振替口座簿における債務者の口座に記載され、又は記録されたものに限る。)に関する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの

これまた長いですね。

要は、預貯金や株式の差押えが容易になるのです。

もちろん、現在の法律でも預貯金や株式の差押えは可能です。

ただ、預貯金を差し押さえるためには、債務者がどの銀行のどの支店に口座を保有しているのか特定する必要がありました。

債務者がどこ銀行のなに支店に口座を持っているのかなんて普通は知りません。

それでは、各銀行に「この債務者の人が預金債権を有しているかどうか、有しているのであればどの支店に有しているのか教えて下さい」と聞いたところで回答はしてくれません。

現在は、なんとか弁護士会照会で、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、ゆうちょ銀行であれば、回答してくれるようになりました。

ただ、その他の金融機関は弁護士会照会をしても回答を拒絶しています。

そのため、債務者は、これら以外の地銀や信用金庫などに口座を作っておけば、労せずして財産を隠してしまえる状態にありました(あてずっぽうで差押えを試みると時々あたりましたが)。

また、株式(振替社債等)についても、どの証券会社で口座を解説しているのかについて特定しなければなりませんでした。

これが民事執行法改正により大きく変わります。

どの金融機関のどこの支店に預貯金を隠そうとも、裁判所を通じて問い合わせれば、わかるようになったのです。

財産開示手続の範囲が広まり、また刑事罰が新設

そして最後に、財産開示手続があります。

財産開示手続というのは、民事執行法197条の手続きで、債務者を裁判所に呼び出し、なんの財産を持っているのか陳述させるという手続きです。

これ、字面だけ見るとすごく強力そうに見えるでしょ。

裁判所にきてどんな財産があるのか陳述しなければいけないのですから、この制度一つで全て事足りるかのように見えます。

でも実際はこの制度はひどいものです。

債務者は、裁判所から出頭命令を受けますが、出頭命令に対する罰則が30万円以下の過料のため、多くの債務者がこんなもの知るか、と裁判所からの呼び出しすら無視していたのです。

今回の改正では、まず申立てできる債権者が、従来は確定判決等を有する者に限定されていたのが、その縛りがはずれ、強制執行認諾文言付きの公正証書を有する人でも申立てできるようになりました。

次にこれが大きいのですが、刑事罰が新設されました

民事執行法213条1項5号で、執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ財産開示義務者が、

同項6号で、宣誓をしたものの正当な理由なく陳述をせず、又は虚偽の陳述をしたものが

6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を課されるようになりました。

簡単にいうと、いままでは裁判所からの呼出しなんて無視しても、どうせ執行できない過料を課されるだけだったのが、無視を続ければいずれ懲役までくらうようになったのです

非常に強力な制度に生まれ変わったと言えるでしょう。

債務者はきちんと支払いをし、どうしても払えないという人は破産手続きを

日本の民事執行制度は強力な制度へと生まれ変わろうとしています。

これまで行われてきたような、「強制執行なんて怖くねーよ」という態度では通じなくなるでしょう。

ただ一方でどうしてもお金を払えないという債務者もいます。

そういった人はきちんと破産をするなりして自身の債務を整理すべきです。

放置するというのは、ただでさえ迷惑をかけている債権者に対して、さらなる迷惑をかけるばかりか自身のクビを締める行為です(ちなみに養育費は非免責債権なので破産をしてもきちんと支払い続けなければなりませんので速やかに支払再開することをおすすめします)。

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