夫の服役中に不倫をした妻からの離婚請求が認められた例
裁判例の紹介
今回紹介するのは、名古屋高判昭和51年6月29日(判例タイムズ344号233頁)の事例です。
事案の概要
簡単に説明すると、以下のような経過です。
昭和33年4月 結婚。その後、二児をもうける
昭和41年8月 夫が自動車窃盗で逮捕、実刑判決を受けて刑務所で服役することになる(昭和43年の終わり頃まで服役予定)
昭和43年5月 妻は二人の子を抱えて経済的に困窮し、飲食店で勤めていたのがきっかけとなり、暴力団関係者と思われる男性と不倫関係になる
昭和43年10月 夫が仮釈放。その後、妻は夫に居所を知られないように実家や知人の家を転々として生活するようになる
昭和45年12月 夫が「精神障害者強制保護理法書」と題した公文書まがいの書面を作成し、妻を強制的に入院させようとする
昭和46年 妻が離婚訴訟を提起
裁判所の判断
このようなケースでよく考えられるのは、夫が実刑を受けた段階で、もはや婚姻関係は破綻しているというものですが、今回の裁判所もそのような認定をしました。
すこし特殊なのは、もはや婚姻関係が破綻しているのだから、その後の不倫は問題にならないとまではされず、妻の不貞行為は、一応は自分のほうが離婚を求める資格を失わしめるという認定をしたところです(もっとも、その後の夫の公文書偽造まがいの行為などは、妻の有責性をかなり上回る高度の有責性を帯びているので、結局は、妻に離婚請求権を認めざるを得ないとしています)。
おそらく、裁判所としては、夫の服役によって婚姻関係に大きなヒビが入ったものの、完全に破綻とまではいかなかった、と考えたのでしょう。
配偶者が服役して離婚をしたいと希望するのであれば、まずは離婚請求を
夫もしくは妻が実刑判決を受けて服役することになった場合、多くのケースでは「もう離婚したい」と思うようになるでしょう。
その場合には、まずはきちんと離婚を求めるべきです。
紹介した事例では、離婚をする前に不倫関係に至ったという事情があり、これをやると、夫側も恨みを募らせろくなことになりません。
夫婦の一方が服役中でも離婚はできます(協議離婚であれば離婚届を差し入れて、署名をしてもらえば良いです。協議離婚が難しければ裁判で離婚請求もできます)。