妻が国際ロマンス詐欺の被害に遭って多額の借金を……! 離婚できる?
離婚国際ロマンス詐欺をご存知でしょうか? 国際ロマンス詐欺は、外国人を装った、もしくは外国籍の犯人が日本人をターゲットに恋愛関係を演出し、現金や仮想通貨を奪う詐欺です。
国際ロマンス詐欺は古典的な詐欺ではありますが、2021年初頭からはマッチングアプリを介して日本人に近づき、多額の金銭を奪う国際ロマンス詐欺が多発しています。
国際ロマンス詐欺の被害に遭うのは、独身者に限ったことではありません。
既婚者からも「子どもの教育資金が奪われた」、「孫に残すはずだった財産を失った」といった被害が報告されています。
ではパートナーが国際ロマンス詐欺の被害に遭ったらどうすればよいのでしょうか? 国際ロマンス詐欺を理由に離婚を求めることができるのでしょうか?
今回は「妻が国際ロマンス詐欺の被害に遭った場合の離婚」について、パラリーガルの○○が本事務所の今村弁護士にインタビューを敢行しました。
配偶者が国際ロマンス詐欺の被害に遭い、お困りの方のお役に立てると幸いです。
国際ロマンス詐欺の被害に遭った妻と離婚できる?
国際ロマンス詐欺の被害者である妻と、夫は離婚できるのでしょうか?離婚の可否から質問していきましょう。
不貞行為を理由とした離婚は認められにくい
パラ:今回はニュースでも話題になっている国際ロマンス詐欺と夫婦関係について伺いたいと思います。
このご夫婦は奥様が国際ロマンス詐欺の被害に遭いました。
奥様がマッチングアプリで外国籍のイケメン男性から言い寄られて、恋人同士のような関係になり、結婚をちらつかされて多額の金銭を貢いでしまったようです。
奥様は詐欺師に対して、ビットコイン(仮想通貨・暗号資産)を送金しており、詐欺師の本名も把握できていません。
また詐欺師が対面を拒むため会ったこともないそうです。
妻 36才 会社員 年収300万円
子ども なし
妻はマッチングアプリで出会った外国人とLINEで将来結婚する約束までした。
詐欺師につぎ込んだお金は夫婦の貯金500万円、借金500万円の合計1000万円。
妻のLINE画面をちらりと見た夫が事態を察知する。怒り心頭で離婚をしたい、できれば慰謝料も請求したいと考えている。
パラ:まずこの状態ですが、夫は妻と浮気を理由に離婚可能ですか? 結婚しているのにマッチングアプリを使って、他の男性と結婚を約束するという一連の行為は浮気ですよね?
今村弁護士:離婚は可能でしょう。ただしその理由は浮気、つまり不貞行為ではありません。裁判等で争ったときに離婚が認められる浮気は、不貞行為と呼ばれるものです。
不貞行為とは性交や性交類似行為のことであり、具体的にいうと挿入を伴うセックスやオーラルセックスです。したがってこの奥様と詐欺師は直接会ったことがないわけですから、不貞行為を理由とした離婚が認められる可能性は低いといえます。
パラ:奥様と詐欺師はLINEのやりとりでお互いの性器を見せ合うなど、まるでオンラインセックスのような行為も行っていたようです。それでも不貞行為ではないのですか?
今村弁護士:はい。メールのやりとりは性交等類似行為には該当しません。ただ実際に会ってそういった行為があれば、メールのやりとりが証拠になり得ます。
離婚できるとすれば「浪費」が理由になり得る
パラ:ではこの案件で離婚が認められる離婚事由はどのようなものが挙げられますか? 裁判等で離婚する場合は法律で認められた離婚に値する理由が必要ですよね?
今村弁護士:本事例では「浪費」が離婚事由に該当すると思います。双方の収入は決して低くありませんが、それでも「1000万円を詐欺師に送金したこと」は、度を超す浪費といえます。
パラ:なぜ「度を超す浪費」が理由で離婚できるのですか?
法的な離婚事由の1つに「婚姻を継続し難い重大な事由」というものがあります。夫婦の共有財産を使い込み、借金まで作るような浪費があれば、結婚生活を継続することは難しいですよね。
パラ:では、「度を超す浪費」の基準はありますか?
今村弁護士:夫婦の収入によります。収入が2人合わせて300万円程度であれば、もっと少ない金額でも浪費と認められるでしょう。またここでいう浪費は中身も重視されます。妻がブランドバッグを購入して高級レストランで食事をするなどして夫婦の財産を使い込んだとしても、離婚が認められる浪費とはいえません。しかし異性へのプレゼントであれば話は別です。過去にも異性へのプレゼントを離婚に値する浪費と認めた裁判例があります。
パラ:妻が国際ロマンス詐欺の詐欺師に大金を貢いだことが事実であっても、離婚できないケースはありますか?
今村弁護士:妻が使い込んだお金が、妻の特有財産であれば、離婚は難しいですね。特有財産とは、妻が独身前から所有していた財産や、親族等から贈与、相続を受けた財産などです。
国際ロマンス詐欺を理由に離婚する場合の慰謝料は?
パラ:度を超えた浪費を理由に離婚する場合、夫は妻に対して慰謝料の請求はできますか?
今村弁護士:十分に考えられます。ただし金額は100万円前後でしょう。慰謝料を獲得できたとしても金額は少ないですね。
パラ:それでは夫の気持ちはおさまりませんよね……。他にお金を請求する方法はありませんか?
今村弁護士:財産分与でしょうね。原則として財産分与は「別居時の夫婦の共有財産」を基準に行います。しかし浪費があった場合は、浪費前の状態に擬似的に財産を戻して、財産分与を計算するのです。これを「持ち戻し」といいます。
今回の事例でいえば、妻は夫婦の共有財産500万円を使い込んだわけですから、残っている財産に500万円を加えた金額が、財産分与の対象です。妻の借金は妻の名義のまま、妻が返済します。
パラ:では夫婦の共有財産が400万円残っていた場合は、400万円に詐欺師に貢いだ500万円を加えた900万円が財産分与の対象になるということですね。
今村弁護士:その通りです。2分の1で分割する場合は、それぞれが450万円を受け取ることになります。妻に支払い能力が無ければ分割で支払ってもらうことも可能ですね。
夫が国際ロマンス詐欺を理由に妻と離婚する手順
パラ:このケースでは、夫が妻に離婚を請求するときにどのような手順を踏めばよいですか?
今村弁護士:まずは妻が詐欺の被害に遭ってから時間をおかずに離婚を請求する必要があります。なぜならば妻が詐欺の被害に遭ってから数年経って、夫が離婚を請求すると「夫婦関係は再構築されたのでは?」と考えられてしまうからです。度を超えた浪費のせいで、婚姻を継続し難くなったはずなのに、数年間一緒に生活をしていれば「婚姻は継続できたじゃないですか」と言われてしまいますよね。
パラ:離婚するために、浪費があったことを証明する証拠は必要ですか?
今村弁護士:詐欺師に送金した証拠だけでなく、詐欺師とのメッセージのやりとりの証拠も必要ですね。ポイントは「妻が夫以外の異性に大金を送金したこと」ですので、異性に送金した証拠を確保しておきましょう。
パラ:具体的に何が有効な証拠として認められるでしょうか?
今村弁護士:詐欺師と妻のやりとりを写真で撮影しておくとよいでしょう。マッチングアプリでターゲットを探す詐欺師の多くは、LINE等のメッセージアプリを使用します。したがってLINEのやりとりを保存しておくとよいですね。
また送金した証拠については、銀行口座の送金履歴が有効です。仮想通貨を詐欺師に送付していたとしても、仮想通貨取引所に銀行から現金を送金した履歴が残っているはずですから。「これから仮想通貨を送付します」といったやりとりがあれば、仮想通貨取引所への送金=詐欺師への送金と類推できるかと思います。
詐欺師からお金を取り戻せる?警察に逮捕してもらえる?
パラ:妻にオンライン上とはいえ、精神的に裏切られた上に財産まで盗られた夫の中には、離婚ではなく「詐欺師への制裁」を検討する方もいらっしゃると思います。詐欺師からお金を取り戻したいと考える方もいれば、詐欺師を警察に捕まえて欲しいとお考えの方もいるでしょう。返金や訴追は可能でしょうか?
今村弁護士:まず詐欺師からお金を取り戻すことについては、詐欺師が特定できておりなおかつ国内在住であれば不可能ではありません。それでもかなり難しいでしょうね。詐欺師が外国在住であったり、氏名が特定できなかったりする場合には、返金は厳しいとお考えください。
パラ:では警察に詐欺師を捕まえてもらうことはできますか? せめて法で裁きを受けさせたいと考えてしまいます。
今村弁護士:詐欺師が外国在住者であれば日本の警察では難しいでしょうね。
パラ:ではマッチングサイトや仮想通貨取引所に責任を問うことはできるでしょうか?彼らが本人確認等を厳格に行っていれば被害が防げたと考える被害者もいらっしゃると思います。
今村弁護士:それも厳しいでしょうね。本来であれば国がルールを決めていかなければならない問題だと考えます。
国際ロマンス詐欺の被害に遭った妻と離婚したい場合は弁護士へご相談を
今回は今村弁護士に「国際ロマンス詐欺の詐欺師に大金を貢いだ妻と離婚したい夫」について質問しました。
結論は「妻が夫婦の共有財産を詐欺師に貢ぎ、その事件が発生してから長い時間が経っていなければ離婚が認められる可能性が高い」ということでした。
国際ロマンス詐欺だけでなく、マッチングサイトで出会った男性などの異性に大金をつぎ込んだ配偶者との離婚は、認められる可能性があります。
「異性に大金を貢いだこと」を理由に配偶者と離婚したい場合は、弁護士への相談をおすすめします。
当事務所では、離婚に関するご依頼を多数いただいており、実績は豊富です。
私たちパラリーガルが丁寧にヒアリングした上で、弁護士が個別のケースに応じて、証拠の確保から離婚の交渉まで対応いたします。
ぜひお気軽にお問い合わせください。
その他のコラム
「今の妻とは別れるからつきあって」といわれたらどうする?
その他絶対にこうした誘いにのってはいけません。 立場上浮気の相手方になってしまい、奥様から訴えられる方の案件もよく担当しますが、「今の妻とはすぐに別れるから」とか、「もう夫婦関係破綻しているから大丈夫」とかいったアプローチを受けた結果、浮気の相手になってしまうということはよく伺います。 ただ、こうした事情、裁判所ではあまりくみ取ってもらえません。 こういった誘いに安易にのってしま...
突然の慰謝料請求に困惑…不倫を疑われたときに取るべき行動とは
その他上司や先輩の配偶者から慰謝料を請求された!! 職場を始めとする人が集まる場は、人間関係がつきものです。 平和に暮らしていたはずが、ある人突然職場の上司や先輩、取引先の人の配偶者から突然不倫の慰謝料を請求された――そうなった場合、請求された側としては冷静さを保つことは難しいのではないでしょうか。 ここでは、突然職場関係者の配偶者から不倫の慰謝料を請求された場合に取るべき行動について紹介します。 慰謝料を請...
性的不一致やセックスレスを理由に離婚はできる?慰謝料は?
離婚性的不一致を理由に離婚は認められる? 夫婦のあり方や性的な嗜好は人それぞれです。精神的な結びつきがあればそれで十分満足という人もいるでしょうし、セックスをしないことに夫婦双方が納得してて仲良く暮らしているケースもあるでしょう。 しかし、子どもがほしい、あるいはパートナーとの性的な関係を大切にしたい、と考えている人にとってセックスレスやパートナーの性的不能、性的不一致は深刻な問題になりえます。 性の問題が原因になっ...
コロナ離婚とお金の話「もう一緒にいるのが限界……」と感じたら
その他コロナ離婚が増えている? 今、離婚を選ぶ夫婦が増えています。 もともと3組に1組は離婚するともいわれている時代ですが、このコロナ禍にあって、そうした傾向はますます強くなってきているようです。 ワイドショーなどで「コロナ離婚」という言葉を聞いたことをある方もいると思いますが、実際テレワークの導入が進んだあたりから離婚の相談件数が増えてきています。 その原因の1つといわれているのが、「ストレス」です。 感染拡大...
恋人が既婚者だった!慰謝料を請求されたら払わないとダメ?
その他既婚者との交際は危険です 既婚者とお付き合いする行為には、一般的にリスクが伴います。 肉体関係を伴う既婚者との恋愛は「不貞行為」といって、民法上の離婚原因、さらには不法行為にあたるからです。 相手の妻(夫)の心を傷つけ、家庭を壊す可能性があるだけでなく、精神的な苦痛を受けた妻(夫)から慰謝料を請求されるおそれもあります。 浮気にあたる行為をした既婚者だけでなく、その人とお付き合いした側である自分も「浮気相手」として慰謝...